賃借人の逮捕にまつわるトラブル(全国賃貸住宅新聞4/13号掲載)

 執筆者/AVANCE LEGAL GROUP LPC  代表弁護士    片山 雅也
                                  執行役員 弁護士 家永 勲

【相談内容】

ニュースや新聞報道により、賃借人が逮捕され、警察署に勾留されているとの情報に接しました。

実際にも、最近部屋に戻っている様子はなく、大家さんからは、いつ戻ってくるのか分からないし、家賃も払ってもらえていないので早く追い出してほしいと言われています。

警察に問い合わせても、詳しい情報は教えてもらえず、今後、部屋を残しておく必要があるのか分かりません。

また、隣室の居住者からは、犯罪者と同じ建物に住んでいるなんて我慢ならないから、追い出すか、追い出せないなら自分が出ていくから引越費用を払えと言われています。

【回答】

まず、やってはいけないこととして、部屋から逮捕者を追い出すために、裁判手続きをとることなく、部屋を片付けて明け渡してしまうことです。たとえ、部屋を使用しない状況が継続していたとしても、そのことだけをもって、法的手続きによらない自力救済が認められることにはなりません。

部屋の明渡しを実現するためには賃貸借契約を解除することが必要となりますが、たとえ、賃貸借契約書において賃借人が逮捕された場合を解除事由として定めていたとしても、裁判例においては、逮捕されたという一事をもって信頼関係が破壊されたとは評価していないものも多く、結局、勾留中に生じる未払い賃料を原因として、賃貸借契約を解除しなければならない場合が多いのが実情です。

できるだけ早く、大家さんや隣人の要望をかなえるためには、逮捕された賃借人自身と面会して、合意解約する旨の書面を取得し、部屋にある荷物の所有権を放棄する旨の所有権放棄書を取得するなどして、本人の同意を得たうえで部屋の片づけをすることでしょう。しかしながら、たとえ所有権放棄書を得ていたとしても、犯罪に関連する物品が部屋の中に残されている事件もあるため、警察と連絡を取り合って部屋の捜査が終了しているか確認しなければ、思わぬところで証拠を隠滅してしまい、捜査を妨害するといったことにもなりかねません。

なお、隣人からの要求に応じるべきか否かですが、上記のとおり、逮捕されたという一事をもって退去させることは困難であり、逮捕者が出たこと自体によって隣人が引っ越しせざるを得なくなるという因果関係も認められないと思われますので、応じる必要はないと考えられます。


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誰の自転車なんだろう?(ニューズレター【不動産業界】vol.5掲載)

執筆者/AVANCE LEGAL GROUP LPC パートナー弁護士 家永 勲
執筆者/AVANCE LEGAL GROUP LPCアソシエイト・弁護士 中村 圭佑


Q
先生、お世話になっております。

実は、うちのマンションは駅に近いということや居住者も多いということもあってか、持ち主不明の放置自転車がたくさんあって、通行しにくくなっているし子供が引っ掛かって怪我したりしているんです。
マンションの管理組合でも対処に悩んでいたんですが、そんな中、ある住民の知り合いの便利屋さんが放置自転車の処分をやっていると聞いたものだから、お願いしたんですね。
駐輪区画内にない自転車は1か月後に処分しますよ、という旨の告知をマンションの掲示板に張っておけばいいと便利屋が言っていたので、その通りにやったんです。

そして、1か月後に相当数処分ができて、ようやくすっきりしたなあと思っていたら、住民でもない変な男が怒鳴り込んできたんですよ。
 『俺がとめていた自転車を勝手に処分したな!! あれはカスタムしてるから50万はするぞ! すぐに払え! 払わないなら警察でもなんでも行くぞ』なんて言ってきて、ほとほと困っているんですよね。
そもそも、住民でもないのに勝手に止めて迷惑かけているんだから、こちらが払う必要はないと思っているし、警察を呼ばれても悪いのはあっちだと思うのですが……


A
たとえ私有地内に放置されている自転車であっても、所有者の断りなく処分してしまうことは器物損壊罪に該当し、刑罰の対象となるとともに、民事上も不法行為として損害賠償責任を負う可能性があります。
 
今回のように、掲示板等により告知を行っていたとしても、当該告知をもって処分に同意したとみることは難しいものと考えられますので、当該手法は適切ではありません。
正しい手続きとしては、誰の自転車かわからないものは警察に連絡することが考えられ、それでも解決しない場合には、簡易裁判所における訴訟等の法的手続きを採ることが考えられます。



■さらに詳しく

放置自転車は、あたかも捨てられているかのようにも思えますが、法的には所有者が存在する動産であるところ、所有者が所有権を放棄しているといったような事情がない限りは、無許可で処分をすることは、器物損壊罪(刑法261条)に該当する行為として、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑罰を処される可能性があります。
さらに、民事上は、不法行為(民法709条)として、所有者に発生した損害を賠償する責任を負うことになります。

以上のような刑罰又は責任は、所有者が無断で駐輪していたとしても結論を左右するものではありません。

そのため、たとえ住民のものではない、すなわち誰のものかわからない自転車であったとしても、所有者の同意なく処分することは前述のような刑罰又は責任を負いかねないものとなります。

そこで、まずは所有者の同意を得る手段を講じなければならないという大原則に立ったうえで、採りうる手段を検討しなければなりません。

まず、所有者が誰であるかを調査する一つの手段として、警察に相談するということが考えられます。
防犯登録番号等があれば警察において調査可能ですし、場合によっては警察が所有者に働きかけて撤去を促してくれることもあります。
また、自転車が盗難自転車であるような場合は、警察において保管する場合もあり、放置自転車が撤去されることもあり得るのです。

しかしながら、警察に相談しても、解決しない場合もあります。

この点、所有者が判明しない場合には、放置自転車を遺失物として届け出ることも考えられるため、届出を前提として警察と十分に話し合うべきであるものと考えられます。
警察がなかなか対応してくれない例もあるかもしれませんが、裁判例上、放置自転車について、所有者が所有権を放棄したか否かが明らかではないときには、遺失物法によって処置することが相当と判断した例があり、また、遺失物として差し出された物に関しては、警察署長は遺失物法に則った手続きを踏まなければならないことから、これを根拠に交渉することが考えられます。

そして、所有者がわかっているが連絡が取れないような場合には、いよいよ訴訟等を行うことでしか適法な対応は難しくなります。もっとも、訴訟といっても放置自転車の価格は低いことが多いため、多くの事例においては簡易裁判所で行うことも可能であると考えられます。

以上のように、放置自転車の処分に関しては場合に応じて適切な対応を行わなければ、思わぬ刑罰や損害賠償責任を負いかねないリスキーなものであるため、十分にご注意ください。


※ 当記事は、2015年4月発行「AVANCE LEGAL GROUP LPC ニューズレター」【不動産業界】vol.5に掲載した内容です。
本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。
AVANCE LEGAL GROUP LPC 企業法務ホームページにて、PDF版ニューズレターをご覧いただくことができます。
http://www.avancelegalgroup-lpc.com/

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■ 配信希望メールアドレス roumu@avance-lg.com

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介護従事者の処遇改善と労働関係について(高齢者住宅新聞4/1号掲載)

           執筆者/AVANCE LEGAL GROUP LPC 執行役員・弁護士 家永 勲


介護報酬の改訂に伴い、介護職員の処遇改善のために処遇改善交付金の制度が実施されてきました。先日の報道によれば、当該交付金の運用基準について、改められることとなり、従前の金額に加えて一人当たり月額12000円を追加して交付する一方で、元の賃金水準と改善後の賃金水準を明記して書類を提出することが求められることとなりました。なお、処遇改善加算については、算定要件を満たさなくなった場合には、返還させ又は加算を取り消されることが予定されています。

交付金により賃金をはじめとする処遇改善が推奨されている一方で、交付金を受給する前提として、事業主と介護職員との間では労働条件の変更が行われることが前提となります。そこで、労働者の賃金を増加させることが必要となるわけですが、この賃金の増加を交付金が受給できる場合に限る、つまり交付金が受給できなくなった場合に元の賃金水準に戻すことが可能でしょうか。

労働契約における賃金は、労働者が取得する基本的な権利とされており、一度合意した以上、賃金を減額することは、原則として個別の合意が必要となります。上記の交付金が受給できることを前提に賃金水準を改善することを計画している以上、交付金が受給できなくなった場合には賃金水準も交付金受給前に戻したいと考えるのが一般的と思われますが、法的に下の水準に戻すことが可能とされているわけではないということになります。

個別の合意を得ることなく賃金を減額する方法としては、就業規則(賃金規程)の改定により、介護職員全員を一斉に減給するといった方法が考えられます。しかしながら、判例上、就業規則の変更には、事業主における変更の必要性と変更することの合理性を満たす必要があるとされています。しかも、賃金の変更を伴う場合には、特に高度の必要性が要求されており、企業自体の存続が危ぶまれたり、経営危機による雇用調整が予測されたりする場合などには認められる余地があるものの、単に交付金が受給できなくなったことのみをもって賃金を一方的に減額することは困難と考えざるを得ません。これらの判例を踏まえて、処遇改善加算を受けている事業者が経営悪化等により賃金水準を低下せざるを得ない場合の取扱いの要件として、一定期間の収支が赤字であることや手続きとして、労使の合意を得ることなどが求められています。

交付金を受給する場合には、交付金の支給がなされなくなったからといって、一度増額した賃金を減額させることは極めて困難であることを認識し、算定要件を満たし続けることを心がけていただく必要があると考えられます。

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