高齢者施設の規模は、大小さまざまなものが現れていますが、高齢者の割合が増加するにつれて、大規模な高齢者施設は増えてくる傾向にあると思われます。

 その際に、注意が必要なのが、入居者間のトラブルの発生です。年齢や入居の経緯、介護が必要な理由もさまざまな利用者の方々が共同生活を営む上で、人間関係のトラブルが生じることは避けて通ることができなくなると思われます。

 かつて、高齢者施設内における、利用者間のトラブルが原因で転倒事故が発生し、当該転倒により骨折等の傷害を受け、後遺症が残ったという事案において、施設に対する損害賠償責任を認めた事例があります。

 被害者となった入居者Xは、過去にも転倒歴があり、見守りが必要な状況にありました。一方、加害者となってしまった入居者Yは、認知症があり、過去にも、他の入居者や介護職員と口論になるなどしており、喜怒哀楽が激しく、暴言や暴行に及んでしまうことがあったという事情がありました。そして、Yは、他人のものを自分のものと勘違いし、取りもどそうとして暴行に及ぶということが過去にも散見されていました。

 このような状況の中、3名配置されていた介護職員らの手が他の業務で塞がっていた間に、YがXが利用している車椅子を自らのものと勘違いし、取り戻すためにハンドルを握り、揺さぶった結果、Xが転倒し、骨折等の傷害を負い、後遺症が残るような大きな怪我を負うことになってしまいました。

 当時の法令等に照らして、事故のあった施設において介護職員が3名という体制自体は法令を遵守したものであり、3名の体制であったことや、全員の手が塞がっていたこと自体は。安全配慮義務違反とはされませんでした。

 しかしながら、Y自身が過去にも暴言や暴行に及ぶことがあったこと、XとYが過去にも車椅子をめぐってトラブルが生じていたこと、本件の転倒が生じる直前にも、YがXの車椅子を揺さぶっていたことなどを考慮し、その場で二人を引き離すのみでは再度トラブルが生じ、その結果、転倒に注意が必要なXが転倒することは容易に予見が可能であったにもかかわらず、二人を接触させないようにしなかったことは安全配慮義務違反となると判断されました。

 入居者間のトラブルについては、当事者間の問題という点もありますが、高齢者施設においては、それらのトラブルから生じる傷害等の結果が重大なものにつながる恐れがあります。目の前のトラブルを避けることなく解決することに加え、再発防止に尽くすことが非常に重要であるといえるでしょう。