デイケアサービスを行っている事業者の中で、利用者の送迎サービスを行っている事業者も多いのではないかと思います。
介護士等の職員が、デイケアサービスを実施する施設の中において、利用者に対して、生命及び身体の安全を配慮する義務を負っていることは明らかであると思われますが、送迎中については、どのように考えればよいでしょうか。

 この点について、被告の設置運営する医院においてデイケアを受けていた利用者が、そのデイケアから帰宅するための送迎バスを降りた直後、転倒して骨折し、更には肺炎を発症して死亡したことにつき、この死亡は被告又はその雇用する介護士の注意義務違反により生じたものであるとして、利用者の相続人である原告らが、被告に対し、損害賠償金等の支払いを求めたという裁判例(以下、「本裁判例」といいます。)があり、参考になります。

 まず、本裁判例は、バスの送迎サービスが、利用者と事業者との間の診療契約とどのような関係があるのかについて、被告医院においてデイケアを受けるとともに、その通院にあたって被告医院の送迎バスによる送迎を受けるという、診療契約と送迎契約が一体となった一つの契約を締結していたものと捉えました。
そして、被告は、利用者と被告との間で締結された契約に付随する信義則上の義務として、利用者を送迎するに際し、利用者の生命及び身体の安全を確保すべき義務、すなわち、安全確保義務を負っていたものと判断しました。

 なお、被告は、送迎サービスは、診療契約との結びつきはなく、診療契約に求められる安全確保義務のように高い水準の注意義務を負っているものではないと主張していましたが、認められませんでした。

 それでは、この安全確保義務とは具体的にどのような内容のものなのでしょうか。

 本裁判例は、安全確保義務について、利用者の移動の際に常時介護士が目を離さずにいることが可能となるような態勢をとるべき契約上の義務であると判断しています。
 本裁判例のケースにおいては、被告は、本件事故当時、利用者を送迎する送迎バスに乗車する介護士として、運転手を兼ねた者を1名しか配置しなかったこと、利用者が送迎バスを降車した後、当該介護士は踏み台用のコーラケースを片付ける、スライドドアを閉めて施錠するなどの作業をする必要があり、当該介護士が利用者から目を離さざるを得ない状況が生じたこと等が原因とされ、被告には債務不履行があるとされました。

 したがって、事業者におかれましては、施設内のみにおいて安全を確保するのではなく、複数名が送迎を担当するなど、送迎においても安全を確保することができる態勢を整えて、送迎サービスを実施する必要があります。